ANIC開始にあたって

ANIC開始にあたって

 本財団は「生命科学研究、とりわけ創薬・治療法の開発・実用化研究を奨励し、国民の保健と医療の発展及び治療薬剤の進歩に貢献する」ことをミッションに掲げ、これまで世界の生命科学の方向性とその発展性を常に見据えながら、次代を切り拓くような研究テーマへの研究助成、卓越した若手人材の発掘・育成・海外派遣のサポートを通じて、わが国の医学・生命科学に貢献して参りました。

 抗体医薬に代表される免疫調節薬は、関節リウマチなどの自己免疫疾患治療薬、喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患治療薬、抗免疫チェックポイント阻害抗体によるがん治療薬として現在臨床の現場で広く使われています。現在治験中の薬剤も含め、今後も次々と新しい免疫調節薬・バイオが登場すると予想されています。私の専門領域である免疫疾患においても、ある程度の臨床経験があれば、その作用機序や免疫の知識が無くても医者がバイオ・免疫調節薬を比較的簡単に使用できる時代になっています。

 一方、我が国の研究領域の現状に目を向ければ危機的な状況になっていることに気づかされます。次世代シークエンサーの登場によるBig Data活用、バイオインフォマティクス、臨床データに紐づけられたAI診療、イメージング・画像解析・計測技術開発、クライオ電顕、Single Cell解析など、これらの技術革新のキャッチアップにすら汲々とし、世界の技術革新の波からは一歩も二歩も遅れている状況があるように感じています。またこの10年ほど「応用研究」があまりにも重視されたために、「病気に効く、効かない」のみが研究の評価となり、純粋にサイエンスの質を評価するpeer reviewのシステムが揺らいでいるようにも思います。一見時代を謳歌しているように見える免疫調節薬・バイオの開発すらも、実は限られた標的分子に薬剤開発が集中している状況があります。このような状況の中でも、次代を切り拓いていくような「きらりと光る」研究、それをする「顔が見える」若手研究者の支援を行っていくことが本財団の使命です。

 本財団はこれまでも毎年50件(1億円) 海外留学助成11件(4,950万円)の助成を行ってまいりましたが、さらにこれらの事業を継続して強力に推進するために、また、海外留学時の研究者の財政的負担を軽減する必要性から、「本財団のありたい姿」を、財団に関わる理事、評議員、学術委員の先生方と1年以上議論を重ね、2022年度からANIC(AFRMD Next-generation Innovators’Challenge)という形で、アステラス製薬株式会社からのご支援・ご寄付をいただけることになりました。
ANICでは、これまでの研究助成採択枠を50件から80件に増やすとともに、海外留学補助金を11人に1人最大450万円から700万円に増額します。さらに、将来的にイノベーションを巻き起こすようなユニークな研究や次代のイノベーターへの継続的なサポートを強化するためステップアップ研究助成をスタートさせます。

 本財団は今後も目先の成果ではなく、常に先を見据え、我が国の生命科学研究、とりわけ創薬・治療法の開発に繋がる可能性を秘めた研究、次代を切り拓くような研究テーマへの研究助成、卓越した若手人材の発掘・育成を通じて、今後もわが国の医学・生命科学の発展に貢献していきたいと考えています。若手研究者の皆様は是非積極的にご応募いただくとともに、関係の先生方におかれましては、引き続きましてご支援、ご指導、何卒、よろしくお願い申し上げます。


研究者へのメッセージ

■理事
理事 山下俊英
大阪大学大学院医学系研究科 教授
理事:山下俊英 大阪大学大学院医学系研究科 教授
私たちはこれから発展していこうとする研究者の方々を応援したいと考えております。
私は30代半ばでドイツにポスドクとして留学しました。博士をとったばかりで、研究者としてはいささか未熟でしたが、日々の実験を通じて研究者として成長していく充実した日々を送っていました。その間、新しい研究テーマについて想像をめぐらし、徐々に自らの裁量で研究を進めていきたいと考えるようになりました。帰国後に所属した研究室では、運良くサブリーダーの役割を与えられ、大学院生とともに自身の研究を自由に進めていくことができました。自立を目指す研究者にとって、力を蓄えた適切な時期に独自の研究を行うための場所と資金を与えられることは、素晴らしいチャンスです。私自身が研究室を運営する立場になり20年が経とうとしていますが、研究員や大学院生が自ら思い描いた仮説を実験によって検証し、将来に花開く研究を行ってほしいと願いながら、研究室の環境を整備してきました。その経験を通じて、一人ひとりの研究者の思いを大切にし、バックアップすることの重要性を確信しています。
財団からの案内には以下の文言がありますが、財団関係者で共有する思いです。

特に応援したい研究者は、「個人型研究を新たに提案する研究者」、「女性研究者」、「教室を立ち上げたばかりの研究者」、「留学から戻られたばかりの研究者」、「ライフイベント(出産、育児、介護)と研究を両立させている研究者」です。

上記に限らず、挑戦してみたい研究テーマを持っておられる研究者をサポートしていきます。申請者の方々の研究に対する思いを申請書に綴ってください。本財団の取り組みが、研究者の方々のお役に立てればと願っております。