ご挨拶

公益財団法人 アステラス病態代謝研究会 理事長 熊ノ郷 淳

応募にあたって

 21世紀になって登場した免疫調節薬・バイオ(生物学的製剤、抗体医薬)は、関節リウマチなどの自己免疫疾患治療薬、喘息などのアレルギー疾患治療薬、昨年度ノーベル医学生理学賞の受賞対象となった抗免疫チェックポイント阻害抗体によるがん治療薬として現在臨床の現場で広く使われています(すべての薬の売り上げの6~7割を占めているとも言われています)。治験中の薬剤も含め、今後も次々と新しい免疫調節薬・バイオが登場すると予想されています。私の専門領域である免疫疾患においても、ある程度の臨床経験があれば、その作用機序や免疫の知識が無くても医者がバイオ・免疫調節薬を比較的簡単に使用できる時代になっています。


 このような成果の多くは、1980年代、1990年代、分子生物学的な手法をいち早く取り入れることにより爆発的に進展した基礎研究―サイトカイン、サイトカインシグナル、共刺激分子の同定、制御性T細胞の発見、破骨細胞制御の解明など―の恩恵によるものです。何らかの形でこのムーブメントに関わり、その中で培われた基礎研究に対する「皮膚感覚」を有した先生方がphysician scientistとして免疫調節薬・バイオの臨床現場への普及に貢献されてきました。この時代の先生方はphysician scientistとして一つの高みにあったのかもしれません。


 一方、我が国の現状に目を向ければ危機的な状況になっていることに気づかされます。次世代シークエンサーの登場によるBig Data活用、バイオインフォマティクス、臨床データに紐づけられたAI診療、イメージング・画像解析・計測技術開発、CyTOFによるリンパ球の多染色解析, クライオ電顕、Single Cell Body Mappingなど、これらの技術革新のキャッチアップにすら汲々とし、世界の技術革新の波からは一歩も二歩も遅れている状況があるように感じています。またこの10年ほど「応用研究」があまりにも重視されたために、「病気に効く、効かない」のみが研究の評価となり、純粋にサイエンスの質を評価するpeer reviewのシステムが揺らいでいるようにも思います。一見時代を謳歌しているように見える免疫調節薬・バイオの開発すらも、実は限られた標的分子に薬剤開発が集中している状況があります。このような頭でっかちの状況は、高齢化社会を迎えている我が国の逆ピラミッド型の人口ピラミッドのような状況とも言え、このままでは近い将来のサイエンスの発展すら見込めないのではと危惧しています。


 アステラス病態代謝研究会は目先の成果ではなく、常に先を見据え、我が国の生命科学研究、とりわけ創薬・治療法の開発・実用化研究の発展・進展に継続的に貢献することをミッションに掲げています。次代を切り拓くような研究テーマへの研究助成、卓越した若手人材の発掘・育成・海外派遣のサポートを通じて、更に、異なる研究領域の研究者がお互いの研究を知り合う「場」(毎年の研究成果報告会)を提供することで、今後もわが国の医学・生命科学の発展に貢献しいきたいと考えています。是非とも意欲的な研究テーマのご応募を期待しています。